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血の契約と魔石の継承者
血の契約と魔石の継承者
作者: みみっく

1話 泥まみれの姫君の焦燥

作者: みみっく
last update 最終更新日: 2025-12-08 23:50:53

 陽だまりの広場には、子どもたちの笑い声が弾けるように響いていた。その輪の中で、ひときわ目を引く少年がいた。

 淡い金髪が午後の陽光を浴びて柔らかく揺れ、青く透き通る瞳は好奇心と無邪気さでキラキラと輝いている。まだ背の低いユウは、泥のついたシャツの裾など微塵も気にすることなく、木の棒を剣に見立てて、土の地面を蹴って走り回っている。

 ユウは、村の農家の息子だ。ボロボロのシャツに、膝の辺りに土汚れがこびりついたズボン姿であったが、その愛らしい顔立ちと、誰にでも分け隔てなく向けられる優しい笑顔は、どこか浮世離れした王子様のような、人を惹きつける雰囲気を纏っていた。

 その隣では、ふわりと揺れる艶やかな茶色いロングヘアを午後の風になびかせながら、クラリスが少し頬を膨らませていた。

「ユウ、こっち来て! わたしがお姫様役なんだから、ちゃんと守りなさいよ!」

 クラリスは、少しでもユウの気を引こうと、精一杯に声を張り上げていた。その声には、少しの苛立ちと、ユウへの強い期待が入り混じっている。

 村の子どもたちは、クラリスの我儘な振る舞いに、ほんの少しだけ眉根を寄せた。しかし、日頃からの彼女の押しの強さに慣れているためか、結局は彼女の言う通りに、渋々ながらも動き出していた。

「またクラリスの冒険ごっこかぁ……」

 誰かが小さな声でぼやいた。その声は、広場の喧騒に掻き消されそうになるほど微かなものであったが、クラリスの耳はそれを逃さなかった。

 クラリスは即座にムスッとした不満顔になり、大股でぼやいた男の子の前に詰め寄った。

「『様』をつけなさいって言ってるでしょ!」

 クラリスは人差し指を突きつけ、気まずそうに顔を歪ませている村の男の子を鋭く睨みつけた。

 ユウは、そんな二人のやり取りにも慣れきった様子で、困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべながら、ゆっくりとクラリスの隣に立った。

「わたしお姫様役だから、ちゃんと傍にいて守りなさいよ! わたしから離れちゃ護衛できないじゃない!」

 クラリスは茶色いロングヘアをキラキラと輝かせながら、少しだけ照れたように顔を背け、ユウに訴えかけた。その声には、我儘な響きの中に、彼に認められたいという純粋な願いが滲んでいた。

「はいはい、姫様。ちゃんと敵が来たら俺が全部倒すからな」

 ユウは朗らかな笑みを顔いっぱいに浮かべながら、軽やかに言った。

 その屈託のない笑顔を向けられたクラリスは、一瞬だけドキリとしたように息を詰まらせ、思わず照れくさそうに目を逸らした。そして、顔に上った熱を誤魔化すように、小さな声で、「フフッ……当然でしょ」と呟いた。その声は、風に乗って広場の明るい喧騒の中に溶けていった。

 広場の空は、どこまでも高く青く澄み渡り、心地よい風が乾いた草の葉先をさらさらと揺らしていた。

 その日、無邪気に笑うユウは、まだ知る由もなかった。この傍若無人で、それでいてどこか憎めない可愛い女の子との日常が、後に彼の『女の子耐性』を恐ろしく強固に育てる土壌となることを、彼は想像すらしていなかったのだ。

 やがて、太陽が西の空へ傾き始め、広場全体が柔らかな茜色に染まり始めた頃、それまで堂々と振る舞っていたクラリスが、急に不安そうな表情を顔に浮かべ始めた。その顔は、まるで初めての秘密を抱えた子どものように、所在なさげに見えた。

 ユウは、その変化を敏感に察し、小さくため息をつくと、クラリスに優しく声を掛けた。

「今度は、どうしたんだ?」

 ユウに声を掛けられると、クラリスは感情を悟られまいとするかのように、「フン」と鼻を鳴らし、わざとらしくそっぽを向いた。そして、お姫様の玉座に見立てていた、表面が苔むした倒木から、慎重な仕草で立ち上がった。

「今日は、もう遅いから帰るわよ……」

 クラリスは、周囲で遊んでいた皆にそう告げると、有無を言わさぬ速さでユウの服の袖をグイッと掴み、広場の出口へと足早に向かった。

 ユウは、幼いながらも周囲の状況を鋭く読み取る洞察力に優れていた。クラリスに引きずられるように歩きながら、彼は合点がいったように内心で頷いた。

(そういえば……いつもと比べて服が豪華で、『今日のお前は本当にお姫様みたいだ』って誰かに言われてから、急に冒険者ごっこが始まったんだよな。このドレスみたいな、フリルがついた新しい服を着て走り回って、思い切り土で汚しちゃって、それを母親に見つかるのを心配してるのかもしれないなぁ……)

 ユウは、繋がれたクラリスの手のわずかな震えから、彼女の抱える小さな焦燥を感じ取っていた。

 クラリスは、こっそりと俯き加減になり、その顔には深い心配の色が浮かんでいた。彼女の琥珀色の瞳は、今にも零れ落ちそうなほどに潤み、不安に揺らめいているのが見て取れた。彼女は、広場の地面に視線を落としたまま、無言で足を運んでいた。

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